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Sahara Horizon , Sahara
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Sahara Horizon , Sahara
煌めく星空のもと、テントを抜け出し岩山に登る。三脚にカメラを据えて10分も過ぎたころ、東の地平がかすかに染まり、夜明けの最初の兆候があらわれる。そして時間とともに、曙光に染まる砂と岩の地平が闇のなかから徐々に立ちあがり、輪郭を露わにしてゆく。音もなければ、およそ生き物の気配もない、それは鉱物の世界とでも譬えるべき、凄まじくも壮大な眺めであった。1993年12月、サハラ砂漠最奥地、アルジェリアとニジェールの国境をなす、タッシリ・アハガールと呼ばれる無人地帯に立っている。この一帯はサハラの中でも極限の乾燥地帯である。
私がはじめてサハラに足を踏み入れたのは1972年、フリーの写真家としてスタートして1年後のことだった。フリーになった当初、メシのために撮影していたのはスタジオでのモデルやタレント、そして様々な商品といった、もっぱら商業写真であった。
ドキュメンタリーに転身するきっかけとなったサハラとの出会いは、友人たちに誘われたヨーロッパ・アルプスへのスキー・ツアーであった。ツアーを終えてパリで解散したのち、友人のひとりとポンコツ車を購入して、スペイン方面に気ままな旅に出てみようということになったのである。そこで、地図を買って眺めているうちに、スペインの南に北アフリカが広がっていて、その内陸が広大なサハラ砂漠であることにあらためて気づいた。ヨーロッパとアフリカを隔てるジブラルタル海峡は、フェリーでわずか1時間半。
渡ってしまえば、舗装道路がサハラの真っ只中にまで通じているではないか。映画「アラビアのロレンス」で砂漠に魅せられて以来、“地平線に立ってみたいという強烈な願望を抱いていた私たちの旅の目的地は、迷うことなくサハラになった。
モロッコの東部を南下してアルジェリアに入る。走るにつれ乾きは徐々に激しくなり、剥き出しの大地のスケールと空の蒼さに圧倒された。そしてアルジェリアに入って2日目に、想像を絶する砂の海の真っ只中に私たちは立っていた。風に流れる砂は茶褐色の極限の粒子で、手ですくってみると砂金と見まごう美しさであった。
砂と岩と天空の星々。空白の地平のなかに突如出現する緑したたるオアシス。そして砂の囚われとでもいうべき人々の強靭な生きざま。こうして異次元世界の虜にされた私のサハラ通いが、その翌年から始まるのである。
夜明けの最初の兆候から30分ほどたって、開け放たれたタッシリ・アハガルの地平に太陽が昇った。澄み渡った大気のなか、月面を思わせる裸の大地を、最初の光芒がゆっくりと移ろってゆく。原初の光景とでも呼ぶべき荘厳な光のショーを、地球の涯で、たった独り眺めている至福を私はかみしめていた。
―高知新聞連載記事「異次元の大地へ」より転載―